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特集2010:「春を締めくくる戦い」

2010/06/29

日本一を目指す「明治大学ラグビー部、前へ」VOL.43
「春を締めくくる戦い」




6月の最終日曜日、明治大学・八幡山グラウンドでは「北島忠治ラグビー祭」が開催された。心配された天候は、時折、細かな雨が降る程度。会場には多くの来場者の姿があった。ラグビークリニックや高校生同士の試合といったプログラムの中でも、この日、注目を集めていたのは、明治大学と同志社大学による定期交流戦。ホームグラウンドで行う春の総仕上げとなる試合に、多くの期待が寄せられていた。


定期交流戦
明治大学A vs. 同志社大学A
○38-29●
2010.06.27 明治大学 八幡山グラウンド

「すべてを出そう」

 上空の雲は目まぐるしく姿を変えていた。グラウンドを静かに濡らす雨と、雲の切れ間から差し込む陽光が交互にやってくる。強い日差しによって水気はすぐに蒸発し、時が経つにつれグラウンドの湿度は上昇していく。蒸し暑い。試合前のウォーミングアップを控えた選手たちの額にも、自然と汗が浮かんでいた。
 午前中から行われていた「北島忠治ラグビー祭」。開会宣言から吉田監督の挨拶、スタッフと1年生の紹介といったプログラムに続いて、幼稚園児や小学生を対象としたラグビークリニックも行われた。パスやタックルといった基本のプレーを通して、子供たちと交流した選手たち。グラウンドはしばらくの間、和やかな雰囲気に包まれていた。明大中野高校と国学院久我山高校による試合の終了後、明治のウォーミングアップが始まった。
 グラウンドに一列に並んで体を動かしていく選手たち。それまでのリラックスした表情から、徐々に集中が高められているように見える。動きが烈しくなるにつれて、声も出てくるようになっていった。「おい、明治、集中していこうぜ」。「明治、声出していきましょう」。大きな声がグラウンドに響く。アップを終える頃には、試合前の緊張感が辺りを覆っていた。
 紫紺に着替えた選手たちを集めて、細谷コーチは話した。「今日のゲームにかかってる。ひとりひとりにかかっているんだ。王者帝京にチャレンジする資格があるかどうか。これからの80分間で出し切ろう」。続いて吉田監督が熱く語る。「相手がどのチームでも関係ない。ここ八幡山で紫紺を着て戦うんだ。紫紺のプライドだよ。春にやってきたことの総決算。最初から圧倒していこう」。選手の表情が鋭くなっていく。主将の杉本が声をかける。「俺たち、もっと強くなっていかなあかん。ここからステップアップしようや。春にやってきたこと、すべてを出そうぜ。80分間、暴れ回ろうぜ」。スコッドメンバーの雄叫びが響いた。




「予想外の展開」

 グラウンドに登場した選手たちを、エスコートキッズが出迎える。手をつないでの入場となった。両校の校歌斉唱やキックオフセレモニーを経て、いよいよ試合開始。春の定期交流戦は同志社のKOで幕が開けた。
 ゲームは立ち上がりから予想外の展開となる。同志社の攻勢に晒された。明治のタックルが決まらず、同志社にリズム良くボールをつながれる。ディフェンスの出足が遅れた明治は徐々に後退。8分に、サイドの突破を許し先制のトライを挙げられてしまう。ゴールは成らなかったものの0-5となる。すぐさま反撃に出た明治は、同志社陣内、22メートルライン付近でマイボールスクラムの機会を得る。そのスクラムサイドを8杉本が斜めに鋭くランニング。トライを奪った。10田村のゴールも成功し7-5とする。その5分後には10田村のタッチキックをきっかけに同志社陣内へ侵入。明治ボールのスクラムから9秦、10田村と左サイドへ展開。大外の11小澤へと長いパスがつながり、そのままトライ。10田村のゴールはバーに嫌われ外れてしまったが12-5となる。このまま、明治が主導権を握るかと思えたが、ラインアウトやキャッチングのミスにより、畳み掛けることができない。15小泉の力強いランニングなども見られたが、スコアに結びつけられずにいた。
 一方、豊富な運動量で勢いに乗る同志社は、徐々に明治のゴールラインへ迫ってくる。そしてとうとう28分には再びトライを挙げる。明治陣内22メーターラインでの明治ボールスクラムをターンオーバー、左サイドからしぶとく継続してのこと。スコアは12-10となる。さらにその4分後には同志社のBKに明治のラインのギャップを衝かれ、突破を許してしまう。一度は明治もターンオーバーするものの、パスミスから再びボールを奪われ、しぶとく展開されてトライ。12-17と逆転される。
 その後、明治は12溝口のラインブレイクなどで同志社のゴールラインへ迫るシーンが見られたが、チャンスの場面でミスが出てしまう。スコアを動かすことができないまま、前半を終えた。
 前半の内容は良くない。ハーフタイムの選手たちは必死に修正を試みていた。FWのユニットでは攻守両面から様々なポイントが話し合われていた。「ディフェンス、もっとタックルを低くいかないと。受けにまわってるよ」、「もっとテンポ上げていきましょう」と3城、2郷と次々に修正点を挙げていく。西原コーチも「FW、余計なことを考え過ぎだ。シンプルに前へ前へ行こう」と声をかけていた。




「自分に負けるな!」

 後半開始の時間を前に、細谷コーチが選手たちに向かって話した。「悪い流れだ。これを後半にひっくり返そう。シーズン中には、こういう展開が必ずあるぞ。それを今やろう。淡白なディフェンスが多くて簡単に球を出させすぎている。ここを修正だ。そして開始10分で1トライ取ろう。流れを変えるんだ」。続けて、吉田監督が選手の前に立った。「厳しいことを言うぞ」。と前置きをした上で、熱く語りかけた。「お前たちに、気持ちに弛みがあるんじゃないのか? 自分自身に負けているんだよ。今日が対抗戦の一試合目じゃなくて良かった。八幡山で紫紺を着ているんだぞ。普段の練習通りにひとりひとりがやるべきことをやろう。1対1、継続プレー、シンプルに強く。残りは40分しかないぞ! 密度の濃い、精度の高いプレーを意識していこう」。引き締まった表情の選手たち。主将の杉本を中心に円陣を組み、グラウンドへ向かった。
 エンドを替えた後半、天候は徐々に晴れ間を増やしていった。立ち上がりの10分でトライを奪うべく、明治が猛攻をみせる。そして7分、見事に実現する。10田村のタッチキックを同志社大学がファンブル。11小澤がそれを素早く奪い、そのままインゴールへ駆け込んだ。ゴールはならなかったものの、17-17とする。一気にペースをたぐり寄せた明治。リズム良くパスを繋ぎ、同志社陣内へ攻め込んでいく。しかし最後のところでキャッチやパスのミスが出てしまい、フィニッシュにつなげられない。11分には1榎、2郷に替わって16長江、17圓生が入った。
 1トライを奪って以降は、攻め込みながらもなかなかスコアを動かせない明治。最後のところでのミスが前半と変わらず出てしまう。しかし21分、同志社のキックを7三村がチャージ。これがきっかけに、同志社のゴールライン手前でのマイボールスクラムのチャンスを得た明治は、8杉本、9秦、14木村とつなぎ右サイドからトライ。10田村がゴールも成功させて24-17と加点する。その直後には4梁に替わって19千布、13大澤に替わって22外原が入った。
 ゲームの流れを掴み続ける明治は、さらに攻撃を仕掛けていく。25分には同志社陣内22メートルラインの内側から、明治ボールのラインアウト。これをミスなくつなぎ、ドライビングモールを形成。そのままインゴールへ押し込み、トライを奪う。明治らしい攻撃に、会場からも大きな拍手と歓声が沸いたシーンだった。10田村もゴールを決めて31-17と同志社を突き放す。
 しかし、粘り強く攻撃を繰り出す同志社は明治陣内に攻め込み、パスをテンポ良くつないでいった。右から左への大きな展開から、明治はディフェンスのギャップを衝かれ、最後はBKにトライを奪われた。31-22となる。ここで明治はさらに選手の入替を行う。5友永、9秦、10田村に替えて18日高、20田川、21染山が入った。
 試合も終盤に入った35分。これまで優位に立っていたスクラムで、明治がペナルティを取られてしまう。同志社ボールのスクラムとなると、これを素早く球出し。同志社のSHがスクラムサイドを鋭くランニングし、そのまま中央をラインブレイク。トライとなる。ゴールも決まり、31-29と詰め寄られる。しかし明治もここから反撃。後半に入り、精度が上がってきたラインアウトから、8杉本、19千布とつなぎトライ。21染山のゴールも成功し38-29。ここでノーサイドの笛となった。




「これからも、積み上げていきたい」

 試合終盤には、雲の切れ間が広がっていったこの日。交流戦が終わった頃には晴れ渡り、初夏の強い日差しが選手や観客に降り注いでいた。試合後、クールダウンを終えたスコッドメンバーは、ファンやOBとの親睦会に参加するため着替えに急ぐ。そんな中、主将の杉本選手は今日のゲームに対する思いを話してくれた。「もう、前半の出来が最悪でした。前に行こうとする意識が強すぎて取り急いでしまい、みんなにミスが出ました。ハンブルしたり、ディフェンスのラインが下がったり……。本当に良くなかったですね。今年は安定して力を出せるチームになりたいと思っています。後半、盛り返せたのは良かったんですが、安定はできていない。これからの課題だと思っています。それでも、後半に修正できたのは、春の積み上げがあったからでしょう。このチームには試合中の修正能力があると思います。それを確認できました。夏は合宿が控えています。前を向いてもっと積み上げていくつもりです」
 7月4日には早稲田との新人戦が控えているが、春のオープン戦の日程をほぼ消化した明治。昨年から取り組んできた体幹の強化や日々の練習、そして各校との試合を重ねる中で、課題を見つけながら着実に力をつけてきた。もちろん、先の帝京戦を挙げるまでもなく、日本一を成し遂げるためには、選手一丸となったさらなるステップアップが必要。負傷が心配された副将の衛藤選手も、7月中には練習に復帰するという。春に積み上げたものと課題を抱え、選手たちは夏合宿へ向かっていく。よりたくましくなって八幡山へ帰ってきてくれるだろう。



(取材・文/田口悟史 撮影/福田喜一)