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特集2010:「超えなければいけない、壁」

2010/06/23

日本一を目指す「明治大学ラグビー部、前へ」VOL.42
「超えなければいけない、壁」
 


帝京大学百草園グラウンドで行なわれた、帝京大学との練習試合。春のオープン戦では、ここまで快調に連勝記録を伸ばしてきた明治の選手たち。この日挑むのは大学選手権優勝校であり、昨年完敗を喫した、超えなければならない大きな壁。練習試合にも関わらず、多くの観客が詰めかけた注目の一戦が始まろうとしていた。



練習試合
明治大学A vs. 帝京大学A
●19-45○
明治大学B vs. 帝京大学B
● 12-22○
明治大学C vs. 帝京大学C
●14-17○
明治大学D vs. 帝京大学D
●21-35○
2010.06.20 帝京大学百草園グラウンド

「チャレンジャーとして」
 梅雨入り間もない6月の下旬。この日は幸い曇り空だが、上空を覆う薄い雲の合間から、時より覗く太陽がジリジリと気温を上昇させる。午前中から行なわれたDチーム、Cチーム同士の試合では、21-35、14-17と共に帝京大学に敗戦。午後2時のキックオフに向けて、Aチームの選手たちのアップが始まろうとしていた。「声をかけ合って、テンションとムードを上げていこう。もう試合は始まってる。ここから集中しよう!」と、主将の杉本の声で選手たちが集合。ウォーミングアップが進むなか、「明治、雰囲気重いぞ! 声を出していこうぜ」と、10田村が声をかけ、選手たちも徐々に大きな声を出していく。高台にあるグラウンドに時折吹き込む風が、熱気を帯び始めた選手たちの身体には心地良さそうだった。
 アップを終えて選手たちが集合する。「春からのテーマとしてずっとやってきていること。ブレイクダウン、そこからのリアクションスピードを意識していこう。一歩前へ出よう!」と、いつにも増してチームメイトを叱咤する杉本の姿が印象的だ。「前半は風下だから、ペナルティをしないようにしよう。焦らずにいって、接点への集まりを早く。いつもより一歩前に出て、リアクションで勝負していこう。いいな、お前たちで今日のこの流れを止めるんだ」と、細谷ヘッドコーチが冷静に声をかける。最後に、吉田監督が檄を飛ばして選手たちを送り出した。「杉本と衛藤が引っ張って、春から積み上げてきたチーム。今日まで、どのチームに対しても圧倒してきたお前たちが、負けるはずないんだ。相手は帝京、去年の日本一のチームだ。今日はチャレンジャーとして暴れ回って来い!」




「1対1で負けない」
 帝京大学のキックでゲームが始まった。立ち上がり早々、追い風を活かした素早い展開で攻め込んだのは帝京だった。開始6分、明治陣内10メートルライン付近での帝京ボールスクラムをきっかけに、リズム良く右サイドのBKへ展開。そのままトライを許し0-5と先制される。スローフォワードやノックオンなどのミスが続いた明治は、ゲームの主導権を奪えない。10分には、再び帝京ボールのスクラムからBKに展開され、最後はFWに押し切られてトライ。ゴールも決まり0-12と加点を許す。
 しかし、そこから攻戦に出た明治。15分、帝京陣内10メートルライン付近でのマイボールスクラムから、今度は明治がBKへ展開。中央でパスを受けた10田村が、パスフェイントを交えた鋭いランニングでラインブレイク。そのままインゴールへ駆け込んでトライを返し、自身でゴールも決めて、7-12と詰め寄った。その後、強く烈しい帝京のオフェンスに再三攻め込まれる場面が続く。しかし、明治は低いタックルと粘り強い紫紺の壁で追加点を許さない。テーマとして挙げられた1対1での当たりの強さを要所要所で見ることができた。
 両チーム共に激しいぶつかり合いが続くなか、25分には帝京の5ボンドにトライを許す。ゴールも決まり7-19。ここで明治は2圓生に替わって17郷が入る。30分過ぎ、攻勢に出る明治。スクラムから9秦のパスを受けた10田村が中央を突破し、左へ展開。ゴールラインまで攻め込むも、その後のパスが繋がらない。逆にターンオーバーした帝京は、ハイパントを明治陣内でキャッチ。そのままトライされ、7-26とスコアを放されてしまう。ロスタイムの41分には、帝京の6ツイに中央からのラインブレイクを許し、そのままトライを奪われる。ゴールも決まり、7-33とされたところで前半を終えた。




「自信を持って、前へ!」
 前半を終え、ベンチで声をかけ合う選手たち。「FW、もっとボールもらいにいこうぜ。まだまだ走れる。練習で走ってきたんだから。ラインアウトの時、セットまでを早くしよう。スクラムの良い形は継続して、有効だと思ったら、もっと積極的に攻めて行こう」と、FWのユニットでは、8杉本が中心となって前半の修正点を話し合う。黒須コーチからは「全然負けてない。下を向くことないんだ、後半もポジティブにいこう」と、選手たちのボルテージを高めていた。集合した選手たちに細谷コーチが語りかける。「後半は風上になるから、しっかりエリアに入っていこう。そうしたら確実にトライは取れる。良いボールをバックスに展開できれば、ラインも超えていける。接点では、ひとりひとりがもっとアグレッシブに。キツいかもしれないけど、もっと運動量をあげていこう」。そして吉田監督が話した。「1対1、タックルの精度を一人一人もっと上げていこう。もう一歩踏み込んで、もっと前に出よう。あとは、お前たちがどれだけ強く勝ちたい気持ちを持っているかだ。自信もって全力を尽くして思いきりやりきろう」。
 最後に主将の杉本が円陣を組んだチームに語りかける。「残りは40分しかないぞ。FWもBKもどんどん前にいこうぜ。苦しいこととか、痛いこととかやっていかないと、トライは取れない。練習でやってきたこと、ここでやろうぜ」。26点のビハインドに、選手たちの気力が萎えることはない。気合い十分で後半戦へ臨んだ。 明治のキックオフで始まった後半。帝京は5人のメンバーチェンジを行っていた。明治も、10分過ぎには1榎に替わり16石原、13大澤に替わり22猿楽が入った。ゲームは立ち上がりから烈しい攻防を展開。帝京のパワーを押し出したプレーにも、明治は体を張って対応する。後半、先にスコアを動かしたのは明治だった。13分にハーフウェイライン付近で得た明治ボールのスクラムから、10田村、12溝口とパスをテンポ良く繋ぎ、左サイドへ展開。大外の14木村が鋭いランニングからトライを奪う。ゴールはならなかったものの、12-33とする。
 20分前後には6千布に替わり20榮長、4古屋に替わり19梁、3城に替わって18小野、9秦に替わって21田川らを続々と投入。25分には帝京陣内22メートルライン付近のラインアウトからモールを組み、BKへボールを繋ぐ。これを10田村はインゴールへショートパントを送り、12溝口が見事にキャッチ。トライを決めた。ゴールも成功し19-33と帝京に迫る。ハーフタイムで語られていた「積極的な攻め」の姿勢を早くも結果に結びつけ、勢いに乗る明治。このまま加点を加えたいところだが、帝京も押し返す。
 30分には明治のゴールライン手前でのスクラムから、帝京のFWがしぶとく前進し、そのまま押し込んでトライ。ゴールも決まり19-40とリードを広げる。終盤、帝京は烈しい圧力をかけて、再びゴールラインまで迫る。明治は鋭いタックルと接点の烈しいプレーでディフェンスを展開するも、FWがラックサイドを突く展開から、最後はトライを許し19-45とされる。ロスタイムにはブレイクダウンから明治がターンオーバー。右サイドを14木村が駆け上がるも、トライとはならずノーサイドの笛。後半、盛り返した明治だが、前半につけられた点差を引っくり返すことはできなかった。




「一進一退のBチーム戦」
 続いて行われたBチームの試合。「ここまで三連敗。もう勝つしかないぞ。お前たちで止めるぞ!」と、吉田監督の言葉で送り出された選手たち。試合は穏やかな立ち上がりを見せた。前半17分に帝京のトライで0-5と先制されるも、21分には明治も中央をラインブレイクし、トライを返す。10染山のゴールも決まり7-5と逆転。その後再びトライを奪われるも、7-10という僅差で前半を折り返す。後半選手を送り出す前に円陣を組んだ、吉田監督から檄が飛んだ。
「この試合勝てるぞ! 前に出るチャンスがあったら、もっとアグレッシブに、出ること。このゲーム、決めてこい!」。
 しかし、後半立ち上がり3分。ドライビングモールから大きくゲインした帝京は、そのまま押し込んで追加点を挙げる。7-15と引き離されるも、明治も徐々に攻勢に出る。36分にはハーフウェイラインで得たマイボールのラインアウトから大きく右へ展開。替わって入った21下村から10染山へと繋がりトライを奪う。ゴールは決まらなかったものの、12-15と詰め寄る。しかし終了間際の39分過ぎには、ゴールライン付近での帝京ボールのラインアウトから、ドライビングモールで押し込まれて追加点を許す。ゴールも決まり、12-22とされたところでノーサイドを迎えた。




「日本一という壁」
 全カテゴリーの試合を終えて、細谷コーチは選手たちに静かに語りかけた。「これが帝京と我々の差だ。日本一への道はいばらの道、そんなに急に上ることはできない。だからこそ、一段一段着実に進まなくてはいけない。そのために、やはり帝京はひとつの壁になるだろう。でもその壁から逃げずに、この差を受け止めて、一歩一歩やっていこう。みんな、下を向く必要はないんだ。下を向かないでくれ。我々は新しいチームなんだ。まずは身体をしっかり休めて、次に集まるときはみんな良い顔で集まろう」。そして、「まずはお疲れさま」と、労をねぎらった後、吉田監督が選手たちに話した。「これが、全員が全力を尽くした結果だ。今日、我々は自信を持ってここに乗り込んだ。そして王者帝京に完敗した。全試合、勝てなかった。今日の悔しい思いを忘れないでくれ。我々は、日本一への階段を上っていくことは止めない。お前たちなら絶対、日本一になれる。越えなければならない壁。ターゲットは帝京。みんなで超えるぞ!」。力強い声が選手たち全員を包んでいた。
 選手たちの目には、悔しさで光るものがあった。「キャプテンなんだから、泣いたらあかんと思うけど……」と、主将の杉本も声を詰まらせた。しかし最後には、「絶対に下を向かない。上を向いて、みんな1つになって練習していこう。今年、このチームで日本一になりたいんだ。絶対、勝とう」と、前を向いて締めくくった。
 ここまで勝ちにこだわってきた新チーム。この日、明治は前年の王者に完敗した。しかしこの敗戦で、選手たちが得たものは悔しさだけではないはずだ。うつむくことなく、監督やコーチの目を真っ直ぐに見つめた選手たちの表情には、強い何かが宿っていた。ぶち当たった壁から逃げない。その姿勢は日々の練習や今後の試合に現れてくるのだろう。週末は同志社大学との定期戦を迎える。さらなる高みを目指す明治の、新たなスタートとなる一戦に注目したい。


(取材・文/西野入智紗 撮影/福田喜一)