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特集2010:「全明治vs.全早稲田」

2010/04/19

日本一を目指す「明治大学ラグビー部、前へ」VOL.34
「全明治vs.全早稲田」

いよいよ最終節を迎えた、全早慶明ラグビー交流戦。伝統の全早稲田との決戦となったこの日は、日本代表として歴代最多の79キャップという記録を持つ、明治OBの元木由記雄の引退試合ということもあり、ただならぬ緊張感と興奮が渦巻いていた。OBの社会人選手と学生選手が入り混ざる一期一会の混合チームによる、伝統校のプライドをかけた一戦が多くの観衆を湧かせた。




第30回 全早慶明三大学対抗ラグビー戦
全明治 vs. 全早稲田
● 45-52  


「伝統を受け継ぐために」

 春の長雨から一転、久しぶりの快晴となったこの日。秩父宮ラグビー場には早くも多くの観客が詰めかけ、陽気に勝るほどの活気に満ちていた。試合前には、明治と早稲田の合同による「子供ラグビー教室」も行われ、会場に和やかさを添える。試合会場にはラグビーキッズたちの元気な声が響いていた。
 それが終了すると間もなく、選手たちがアップのために練習場に登場。空気も試合前の張りつめたものへと変化していった。その中には、この日が引退試合となる12元木由記雄(神戸製鋼コベルコスティーラーズ)の姿も。ランニングを始めると、フェンスの外から選手たちを見守る観衆から、「元木、頑張れ!」と、早くも声援が上がり、この試合の注目度の高さが伺えた。
この日の全明治はOB7名、現役15名というチーム編成。ゲームキャプテンを務める元木が中心となり、徐々にアップも熱を帯びていく。OB、現役ともに声をかけ合う、気合いの入った姿が印象的だった。選手たちの額には汗がにじみ、「集中しよう!」、「もっと強く! もっと強く!」、「前へ! 前へ!」と激しい声があがった。

 試合前のロッカールーム。準備を整えた選手たちに、吉田監督の力強い声が静かに響く。「プライドだよ。魂だよ。今日のゲーム、各々のラグビー人生の中で、一番鋭く! 激しく、……前へ! 行け! 圧倒するぞ」。
 最後には、力強い檄となり選手たちを奮起させる。さらに円陣を組んだ選手たち。12元木からは一言「勝とう!」。すべての選手がかけ声で応じた。
 レジェンドからの言葉を受け、この日6の紫紺を着た杉本主将も「明治らしいプレーをして、フレッシュにいこう。俺たちが長くボールを回し、現役がどんどん前に出て行こう」と、意気込みを見せた。
 そして、怒号のような気合いが廊下に響き渡る。静かな闘志を燃やすOB陣の背中を真っ直ぐ見据え、緊張というよりむしろ興奮で瞳を輝かせた現役選手たちがフィールドへ向かった。




「強く! 前へ!」

 元木選手を先頭に、フィールドへ登場した明治。記念撮影や両校の校歌斉唱が行われた後、明治の10伊藤宏明(NTTドコモ)のキックオフでゲームは始まった。明治は立ち上がりから攻勢に出る。FWの鋭い出足とパワーで、早稲田を圧倒。1南條賢太(近鉄ライナーズ)や3川俣直樹(三洋電気ワイルドナイツ)、7元 申騎(サントリーサンゴリアス)、8斉藤祐也(豊田自動織機)など、熱の込もったOBのプレーに引っ張られるように、一丸となってボールへと殺到する。スコアが動いたのは3分。中央から9筆谷、2渡辺とつなぎ、最後は3川俣がポール左にトライ。9筆谷がゴールも決めて7-0と先制する。続く6分には、8斉藤、6杉本とつないでトライ。8斉藤による、スクラムサイドの突破が見事なプレーだった。ゴールはならず12-0。一方、先行を許した早稲田も、徐々に落ち着きを取り戻す。12分には、クイックスタートから明治のラインを突破。トライとゴールを挙げ12-7となる。
 その後、攻防は一進一退。FWの圧力と、12元木を中心としたBKの鋭いランニング、10伊藤の巧みなキックなど、会場を沸かせるプレーを見ることができた。再びスコアが動いたのは23分のこと。明治陣内に攻め込んだ早稲田のパスを、明治の15濱島悠輔(神戸製鋼コベルコスティーラーズ)がカット。ターンオーバーとなり、そのまま50メートル以上を独走。ゴールラインへと駆け込んでトライを奪った。9筆谷もゴールを成功させ、19-7と突き放す。続く30分にもラックから9筆谷、6杉本、7元とつないでラインを突破、トライを挙げる。ゴールはならず、24-7と大きなリードを奪った。
 しかし、ここから早稲田が反撃を開始。36分には明治陣内深くのスクラムから、最後は早稲田の10大田尾選手にトライを奪われる。ゴールも決まり24-14。さらに40分には、素早い展開から中央付近を突破されてしまう。24-19と差を詰められてのハーフタイムとなった。




「白熱する伝統戦」

 前半を終えた選手たちは、ロッカールームで声をかけあう。主将の6杉本は「ペナルティからのリアクションが遅い。コミュニケーションをとって、リアクションをはやくしよう! ペナルティも気をつけよう」と修正のポイントを挙げた。8斉藤も「ペナルティをなくしていこう。早く戻ろう。もっと走ろう。全然走れるやん!」とFW陣にハッパをかける。1南條も「ガメツくいこう」と声をかけていた。息を再び整え直した選手たち。細谷ヘッドコーチからは「ファーストタックラーがひと呼吸遅い。一人目、二人目から激しくいこう」と指示。最後に吉田監督が選手たちに語りかけた。「前半悪くない。しっかり前に出れてるぞ。後半は、もっと、接点のところで一人一人が厳しいプレーをすること、リアクションを早くしよう」。指示を受けた選手たち「行くぞ!」というかけ声とともに、フィールドに向かった。プレーヤーは15濱島と21染山の入替があった。

 後半は早稲田のキックオフでスタート。突き放したい明治だが、スコアを動かしたのは早稲田だった。6分、ラインアウトからモールを組み、明治のゴールラインへと傾れ込んだ。ゴールは外れたものの、24-24の同点とされる。しかし明治も奪い返す。早稲田陣内のラックから9筆谷が右サイドのインゴールへキックパス。それを21染山が走り込んでキャッチ。トライを挙げた。自身でゴールも決め、31-24とした。10分には12元木と22三輪が入替。会場からは大きな拍手が贈られ、元木選手もスタンドへ向けて大きく手を振る。印象的な場面となった。
 その後、試合のボルテージはさらに上昇していく。12分には早稲田のBKが鋭いステップとランニングから、明治のラインを突破。トライを決めた。17分には明治が8斉藤によるスクラムトライと染山のゴールで加点。続く22分にも、早稲田のゴールライン手前からモールで粘り強く押して、最後は替わって入った16榎がトライ。ゴールも決まり、45-31と明治がリードする。
 しかし、ここから明治のペナルティと早稲田の展開力が際立つようになっていく。粘り強い体を張ったディフェンスを見せる明治だが、27分、29分と連続してトライを許してしまい、45-45と同点とされる。そして37分、連続トライで勢いに乗った早稲田は、明治陣内でグラウンドを広く使った展開を見せる。最後は明治の左サイドを突かれ、後半5本目のトライを奪われる。ゴールも決まり52-45。2分のロスタイムも反撃を試みるが、スコアを動かすことはならず、ノーサイドとなった。
試合後、健闘をたたえ合った両チームは、この試合で引退となる明治の1南條、12元木、22三輪、早稲田の7上村選手を胴上げ。早明の現役、OBが力を合わせて行い、会場は大いに沸いた。




「この借りは必ず返す」

 試合後の記者会見、「今日は私の話よりも元木選手の話が聞きたいと思うので、簡潔にお話しします」と前置きして、吉田監督がこの日の試合を振り返った。
「明治の輝かしい時代を築いてきたOBの選手たちが、魂の込もった素晴らしいプレーをしてくれました。輝かしい選手たち、そして輝かしかったあの時代のラグビーが見られたこと、特に前半、前に前に出て行った姿を見られたのは、嬉しい限りでした」と、OB選手陣に敬意を表し、「今、しっかり学生選手達を鍛えています。後半は学生選手を主体に戦いを挑みましたが、相手を圧倒できるくらいの力が、学生選手達にはまだまだ足りなかったということが、前半のリードを保てず、全早稲田さんに一歩及ばなかったところだと思います。しかし、先輩たちが現役に対して、魂の入ったプレーを、背中で見せてくれたことは、学生選手達にとって、とても価値のあることだと思います。そして、明治のレジェンドの一人である元木選手の最後の勇姿を、紫紺のジャージで見送ることができて良かった」と話した。
 元木選手も「早稲田のリアクションの早さについて行けてなかったなと反省すると同時に、そのキャプテンの大田尾くん(ヤマハ発動機)のゲーム力がすばらしかった。この借りは、現役が返してくれると信じて、僕たちOBは、今後とも全面的にバックアップして行きたい」と話し、信頼関係や多くの人生経験を積むことができた自身のラグビー人生に、悔いなしと締めくくった。

 アフターマッチファンクションでは、多くのファンを前に、吉田監督、早稲田の辻 高志監督が両校のファン、関係者の皆さんに謝辞を述べた後、引退を表明した両チーム4名のOB選手へ花束贈呈などのセレモニーが行なわれた。MVPには早稲田の大田尾選手が選ばれ、盾が授与。さらに両校の部歌の交換も行われ、ファンの皆さんを交えた楽しい時間が過ぎていった。
 会の終了間際に話ができた衛藤副主将は「どうしても勝ちたかった」と、悔しい表情を見せながら、「元木選手はグランドの中でとても頼れる人。すばらしい選手と同じフィールドに立てたことは、とても大きな経験になった。諦めない気持ち、すべてを出し切るという、僕自身、先輩たちに伝えてもらったことをこれからの試合で確実に活かし、勝って結果を残すことで恩返しをしていきたい。早稲田への借りは必ず返します」と、力強く話した。
 前へ! という明治のプレーと精神は、OB選手の誇りを肌で感じることで、現役選手へ着実に受け継がれていくだろう。明治の矜持を取り戻すために、とても貴重な一戦となったはずだ。




(取材・文/田口悟史、西野入智紗 撮影/福田喜一)